断酒771日目 人が人を、赦すということ。(断酒と無関係)

先日、NHKニュースで新たに作られた戦争映画についての特集をしていた。
そこで語られたエピソードがとても印象的だった。

特集は『8時15分 ヒロシマ 父から娘へ』(J・R・ヘッフェルフィンガー監督)という映画についてのもので、広島で被爆体験をした美甘進示(みかも・しんじ)さんという方について紹介していた。
進示さんは去る2020年10月に94歳で亡くなってしまったのだが、幸い映画の完成を見届けることができたという。病床で鑑賞し、涙を流して喜んでいたと、娘の章子さんが話していた。見届けることができて本当によかったなぁ。

特集では、映画の中で進示さんが当時のことを語るシーンがいくつか抜粋されていた。戦争、しかも原爆投下という異常事態、極限状況にあっても、進示さんが人としての心と冷静な目を失わずに生き抜いたことが伝わってきたからだった。

映画のタイトルにもなっている「8時15分」というのは、被爆後に行方不明となった父親の懐中時計が示していた時間のこと。焼け野原となった実家跡から見つけたという。時計の針は焼け、本体の金属部分も溶けてゆがんでしまっているが、進示さんにとっては大切な父親の遺品だ。戦後その時計を、「原爆の恐ろしさを後世に伝えるために」と、ニューヨークの国連本部に寄贈したのだが、何と!あろうことか、提供先の担当部署が紛失してしまったのだ。しかも、その「展示されていない」という事実気付いたのは娘の章子さんで、本部は紛失に気付いてさえいなかったという・・・。父の思いが踏み躙られ、怒り狂って電話をしてきた章子さんに対して、進示さんはこう言ったという。

「そこの人を憎んでもしょうがない。
失ったものがあれば、得たものがある。
怒りで盲目になってしまったら、希望やありがたみも、何も見えなくなる。
まずは落ち着きなさい」

理性ではそうだと分かっていても、実際に絶望的な事態に遭遇した時、咄嗟にこんな風に考えられるものだろうか。
進示さんは被爆して大火傷を負い、収容された診療所で耳を切り落とさなければならなくなったそうだが、その手術の際に必要となる自分のぶんの麻酔を、隣で苦しんでいた女性の怪我の処置のために譲ったのだという。その他にも、「そこでそんな風に他人を思いやれる?」「そこで感謝の気持ちを持てる?」というような、私にとっては驚愕のエピソードがいくつもあった。

人が人を赦すことは難しい。でも赦すことができなければ、戦争は終わらない。
それが美甘さんの考えであって、それを自ら実践してきた人なのだと感じた。
身近な人との小さな諍いさえも赦せない人間が、世界平和を望むのは矛盾しているよな。
戦争をなくしたければ、まずは身近な人と喧嘩をせずに済む方法を考えること。

断酒とは関係ないけど、そんなことを思った日だった。

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